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ヒッチハイク

※注:このお話は、「カーテル」の続きです。
※注:カーテルは、「 ドライブ」の続きです。
場所:フランス (ロワール地方)

無事、車(前述のレンタカーね)を返すと、後は電 車でパリに戻るだけさ〜。って実は、そのときは、こんな穏やかな状態ではあ りませんでした。車を返すのに手間取り、非常にイラ イラしていたのです。どうしてあんなにイライラしていたのか、自分 でも分かりません。

私は、パリ行きの電車をちゃんと駅員さんに確認してから乗りました。その時、 駅員さんは、お客さんとの世間話に興じていました。イライラしていたのに、 ちゃんと尋ねたのだから、俺様ってば、偉い!っと愚かにも思っていました。

その電車は、パリには行きませんでした。途中で乗り換えなければいけなかっ たのです。駅員さん、教えてくださいよ…。その駅で、沢山の人が降りたのを 覚えています。しかし、イライラしていたのと、駅員さんの言葉を無条件に信 用していたのとで、何も尋ねませんでした…。 私には「間違えているという確信があっても、それを正しいと信じ、そのまま しばらく放っておく」という非常に悪いくせがあります。判断し、決断しなけ ればいけないのに、信じてしまうのです。信じるものは、救われない。信じる ものはドツボにはまる…。

おかしいと思ったのは、どっかでみかけた駅名を見た時です。思い切って隣の ボックスに座っている人に尋ねてみました。返事を待つ、その一瞬がすっごく 長く感じられました。

私は、電車を飛び降りました。あたりを見回すと…。あれ…?ここは…?シュ ノンソーでした。昨日、一夜を明かした場所です。なんの因果か…。もう辺り は、薄暗くなっていました。21時を回っていたのですから当然です。 混乱しました。 メダパニよりも混乱しました。やっちまった〜 …。私は、混乱すると、文字どおりあたふたするのですが、この時の混 乱ぶりは目に余るものがあったと思います。Shit! 自然とそんな言葉が口を衝 いて出ました。

わけの分からない行動を取りました。なぜか公園の方に行ったり、昨日歩いて みた道をもう一度たどったり…。多分、自分の犯した間違いが間違いであって 欲しいと、その確認をしていたのだと思います。しかし、そこはやっぱり昨日 と同じ場所でした。

私は、どうすべきか?この根本的疑問に到達するのに、何度右往左往したこと でしょう。電車の時刻表をもう一度凝視しました。電車は、もうありません。 明日の7時までありません。何度見ても変わりません。どっかに穴があって、 そこに21時45分っていう電車があるような気がして…、諦め切れませんで した。

ここからは、でも早かった。ここにいるわけにはいかない。昨日の寒さがよみ がえります。とにかく歩こう。トゥールまで歩こう。昨日、車で走った道を歩 き始めました。1Kmくらい歩いたところに、標識が。トゥール30km。あ、 そんなもんか。何の実感も湧きませんでした。とにかく歩くしかないのです。

私の頭のほんのほんの片隅にしかなかったヒッチハイクという言葉。言葉でし かない言葉。実感のない言葉。その言葉が、どこからどう私の意識に上ってき たのか分かりません。でも、やってみよう、そう思っていました。

22時。もう真っ暗です。でも、時折車は通ります。一ヶ所で長期に待つのは 寒さに襲われるため、危険だと思いました。その時、不思議と他の危険の可能 性は、考えていませんでした。麻痺していたわけでもないと思います。とにか く歩きながら、車が来たら立ち止まって手を出して親指立てて、それを下げる (※注)。それを繰り返しました。

※注: これは、人を罵倒するときにする動作でヒッチハイクの動作は、親指を立てる だけです。やっぱり混乱していたのでしょう、この時は、ここに書いた通り、 親指を立てて、それを下に向けて下ろしていました…。アホな私…。

何台かの車はスピードを落としてくれました。だけど、止まってはくれません。 それでも、可能性があるようでうれしかったです。実は、ただ愚かな人間が目 の前に飛び込んでくるのではないかと警戒して、アクセルを緩めただけだった のかもしれません。

昨日のことを思い出しました。立場は、容易に逆転します。昨日私は、車中の 人でした。1組のカップルがヒッチハイクをしていました。その隣を、ちらっ と横目で見ながら、通りすぎました。心の中には、自分が悪いことをしたよう な罪悪感と言い訳があ りました。今は、安全が第一だから、ごめんなさい。今や、立場は 逆転しました。きっと 現在車中の人達もそう思っていることでしょう…。

10台くらいの車が通りすぎたでしょうか。懲りずに、親指立ててそれを下げ る。1台の車が止まってくれました。止まった!!私の顔はほころびました。 私は、でっかいバックパックをものともせずに、走りました。嬉しくてたまら ないのを、ちょっとだけ抑えて、「トゥールに行きたいのですが…」と言いま した。

彼は、親指を立てて自分の側に引きました。それは、どう見ても「乗れ」のサ インです。嬉しさを抑えることは、もうできませんでした。もしかすると、こ の質問と応答の間には、彼の思考時間があったかもしれません。おそらく私の 方も、その間彼をじっと見つめていたに違いありません。だけれど、その長い 一瞬を思い出すことはできません。

スティーブさん。32歳。トゥールに住んでいて、シュノンソーのホテルで働 かれている方でした。奥さんと子供もいらっしゃる。でも、奥さんは、今は休 暇中で、子供さんとどこかに旅行に行かれているそうで、お一人で留守番。車 の運転は、超荒いが、悪い人ではなさそう。

彼は、私をトゥールの駅まで連れて来てくれました。勿論、私には何の危険も ありませんでした。あえて言えば、急ブレーキでおでこを一度ぶつけそうになっ たことくらいでしょうか。彼に、心からの感謝の意を伝えて、別れしました。 心からの感謝、いつか らしていないだろう…。

トゥールの駅に再び戻ってきたのは、23時30分くらいだったと思います。その次 の2時39分の電車までに、結構時間がありました。相変わらず、変な人に声 をかけられたり、お金をくださいって言われたりしました。が、何にも不快に 思いませんでした。私が今までに感じたことのないような感覚でした。あるい は、ずっと昔に忘れてしまった感覚なのかもしれません。

たった一つのイライラから始まったことでしたが、私にとって大冒険でした。
Special Thanx to Mr. Stieve!!

最後に、ここに書いていない重要なことがあります。彼の車が止まってくれる ちょうど少し前、何やらたまたま家から出て来たフランス人の方とお話をしま した。今からトゥールまで歩いて行きたいのですが、この道であっていますか? トゥールまでは、どれくらいありますか?何気ない会話です。そして、その方 とお話をした直後、スティーブさんがとまって下さったのです。何が言いたい のかと言うと、余裕の重要さです。たまたま出て来た方と話すことによって、 私はちょっぴり余裕を取り戻すことができたのではないかと考えています。そ れまでは、 自分のミスによる失敗をあまりに真剣に考えすぎて、余裕が全くありませんで した。その結果、顔や雰囲気にその余裕のなさが出てしまって、誰も止まって はくれなかったのだと思います。現在の日常生活でもこれは言えると思い ます。あなたの回りにいませんか?余裕のない方…。その人の回りには、人が 集まりません。私も、直感的に余裕のない人は避けがちです。こちらの息がつ まるからです。私が、今回学んだことは、自分のイライラをコントロールする こと、そして、「余裕」を常に意識することの重要さです。


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